仕事中の事故でけがなどをした場合、健康保険を使っての治療はできません。誤って健康保険を使った場合は不正利用となるため、対応が必要になります。
この記事では、労災なのに健康保険を使ってしまった時の手続きの流れ・対処方法に付いて解説します。健康保険使用がNGな理由も紹介しますので、会社員として仕事をする上での基本知識として覚えておきましょう。
この記事でわかること
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この記事を執筆した社労士 | 西岡 秀泰 |
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事業所 | 西岡社会保険労務士事務所 |
保有資格 | 社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(FP)2級・生損保や証券の販売資格など |
所属団体 | 全国社会保険労務士会連合会(登録番号 第14180084号) 神奈川県社会保険労務士会(会員番号 第 1413593号) 全国社会保険労務士政治連盟 |
公式Twitter | @6Ue1cqS400uVTWy |
病気やけがの治療に使える社会保険制度
病気やけがの治療費は全額自己負担するわけではなく、社会保険から一定割合の給付が受けられます。ただし、病気やけがの原因によって使える社会保険制度は異なります。
一般的には健康保険
病気やけがで治療するとき、一般的に利用するのは健康保険です。ただし、健康保険法の第1条では、労働者や被扶養者の「業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産」に関して保険給付を行うと定めています。
つまり、仕事中の事故(業務災害)を原因とした病気やけがの治療は、健康保険の給付の対象とはなりません。仕事中の事故でけがをして健康保険を使った場合、支給対象外の給付を受けたことになるため、「労災での健康保険使用はNG」です。
労災事故の場合は労災保険
労働者災害補償保険法(以下、労災保険)の第2条2項では、「業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」に関して保険給付を行うと定められています。
つまり、業務中の事故(業務災害)と通勤中の事故(通勤災害)による病気やけがの治療については、給付金が支払われるのは労災保険からということです。
また、健康保険は3割の自己負担(70歳未満)がありますが、労災保険が適用になれば自己負担はありません。ただし、労災保険を使用するには、所定の手続きが必要です。
労災保険を使って治療を受ける手続き
労災事故でけがの治療を受ける場合、病院の種類によって手続きの方法や治療費の負担方法などが異なります。
労災病院や労災指定の医療機関(以下、労災指定病院)で治療を受ける場合、病院経由で労災申請すれば治療費の支払いは必要ありません。労災保険から「療養の給付」を受けられるため、自己負担は不要です。
労災指定病院以外で治療を受ける場合、病院経由の労災申請ができないため、一旦治療費の全額を自分で支払わなければなりません。後日、会社経由(または自分)で労災申請すれば、労災保険から「療養費の給付」が支給され、病院で支払った治療費全額が戻ってきます。
治療費には入院や通院の費用のほか、薬局などで受け取る薬代なども含まれます。入院した場合など、労災指定病院以外で治療を受けると、一時的ではありますが大きな自己負担が発生する場合があります。
労災で健康保険を使ってしまったときの手続きの流れ
労災で健康保険を使ったとき、健康保険の利用を取り消して新たに労災保険の給付を受けることになります。手続き方法は、治療を受けた病院などによって異なります。
ステップ1.健康保険から労災保険に切り替える
最初のステップは、病院に「健康保険から労災保険に切り替えできないか」を確認することです。切り替えできれば、健康保険利用の取り消しと労災保険の申請が1度に手続きできます。
労災申請のための「療養給付たる療養の給付請求書」を病院に提出すれば、先に支払った治療費(健康保険の自己負担分)が戻ってきます。
なお、業務災害の場合は「様式第5号」、通勤災害の場合は「様式第16号の3」を使用して給付請求します。
参考:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」
ステップ2.医療費を全額自己負担した上で労災申請
健康保険から労災保険に切り替えできない場合、次のステップが必要です。健康保険利用を取り消した上で、労災保険の申請をする方法です。
- 健康保険利用の取り消し:病院に申し出て治療費全額を自己負担する
- 労災保険の申請:会社経由(または自分)で労働基準監督署へ申請
ステップ1と異なり、「療養給付たる療養の費用請求書」を使って請求します。業務災害の場合は「様式第7号」、通勤災害の場合は「様式第16号の5」です。
2つの手続きが必要になる上、一時的ですが治療費全額の自己負担が発生します。
ステップ3.医療費の自己負担が困難な場合の対処方法
ステップ2の自己負担が困難な場合、既に労災認定を受けている場合に限り、健康保険利用取り消し時の自己負担を免れることができます。手順は次のとおりです。
- 労働基準監督署へ「全額自己負担せずに労災請求したい」ことを申し出
- 労働基準監督署と健康保険の調整後、健康保険から「返還通知書等」が送付
- 労働基準監督署へ「様式第7号(または様式第16号の5)」と返還通知書等を提出
ステップ2と比較して手間と時間がかかりますが、一時的な自己負担を避けることができます。
社会保険の概要を理解して活用しよう
会社員が加入する社会保険には、労災保険や雇用保険(両者を労働保険と呼ぶこともある)、厚生年金、健康保険、介護保険があります。
労災保険は労災事故による病気やけが、健康保険は労災事故以外の病気やけがが対象となるため間違えて利用しないように注意が必要です。社会保険は原則請求しないと給付を受けられないため、社会保険の概要を理解して正しく活用しましょう。
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