土地・マンション・不動産などの相続を希望するとき、生前贈与と遺産相続という2つの選択肢がありますが、両者にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
土地の生前贈与は大元の相続税を回避・第三者に資産を譲渡・遺族トラブル防止などのメリットがありますが、登録免許税・不動産取得税が高額・3年以内の逝去で相続税発生などのデメリットがあります。
土地の遺産相続は手続きが簡単・遺言書で本人の意図を反映・登録免許税が低いというメリットと、相続税や相続後の金銭的コストが発生するデメリットがあります。
遺産相続で発生する様々なトラブルを防ぎながら節税対策を考え、本人が希望する土地の相続を実現することは難しく、これが生前贈与と遺産相続はどちらが得かの判断を難しくさせる原因になっています。
- 土地の生前贈与と相続はどちらがお得かの判断が難しい
- 土地の相続は法定相続・遺言書・分割協議で相続する
- 土地の生前贈与は相続税の節税になる
- 土地の生前贈与と相続で2.0%・0.40%の登録免許税
- 土地の生前贈与は3年以内に逝去で相続税が発生する
生前贈与と遺産相続のどちらが得かは一概に決められない
簡単に生前贈与と遺産相続でどちらの制度を選べば、税金を安く抑えることができるかは難しいテーマです。
生前贈与・遺産相続はそれぞれ別の税金が違う税率で課税されるため、土地の相続プラン・登録免許税や不動産取得税の税率を確認し、慎重に土地の遺産相続を検討しなければいけません。
登録免許税で考えると生前贈与は2.0%・相続は0.40%で税金を納めますが、前者は別に不動産取得税も徴収されます。
この事実から生前贈与より相続の方がお得だと考えるのは早計であり、相続税を考えると生前贈与の方がトータルで支払う税金を抑えられるケースもあります。
また税金問題を優先し過ぎて土地の遺産相続に悪影響する相続方法を選んでしまうと、誰も得しない土地の生前贈与・遺産相続になるリスクがあるので注意してください。
税金(登録免許税・不動産取得税)での差が大きな差となる
遺産相続を考えるとき絶対に外せない重要なテーマのひとつが、遺族が相続後に支払うことになる税金問題です。
- 土地の相続は生前贈与と遺産相続で税金の種類・税率が違う
※生前贈与は登録免許税2.0%・不動産取得税は固定資産税評価額の1.5%
※相続は登録免許税0.40%
例えば土地の所有者が変更されたときに支払う登録免許税は、生前贈与2.0%・相続0.40%という違いがあります。
また生前贈与で土地を贈与した場合、不動産取得税として追加で高額な税金を支払わなければいけません。
この部分だけで考えると生前贈与より相続の方が良いと感じるかもしれませんが、相続には高額な相続税が発生するのでトータルの税金を抑えるため、生前贈与を選択する人も多くいるのです。
生前贈与とは
生前贈与は本人が存命中に遺産分配のルールを細かく決め、家族や希望する第三者に貯金・土地・不動産などの資産を贈与する遺産分配のテクニックのひとつです。
- 生前贈与とは遺産分配のプランを生前に決めて実行する相続方法
※本人の意思通りの遺産分配ができ節税対策としても機能する
遺産分配と聞くと遺言書を思い浮かべる人が多いですが、遺産分配が本人存命中におこなわれることで「不本意な遺産分配」を未然に防ぎ、希望する相続プランを確実に実行できます。
また多くの人が土地の生前贈与を検討するのは、高額な相続税を暦年贈与として毎年少額ずつ贈与することで、贈与税として低税率で納税できるメリットがあるからです。
相続とは
一般的に相続というと故人が生前所有していた貯金・土地・家・有価証券などを、遺言書や法律に則って法定相続人が受贈することを意味します。
- 相続とは本人の逝去後におこなわれる法定相続・遺言書・分割協議のこと
※土地の相続開始は本人逝去後
相続を受ける対象者を法定相続人と呼び、子どもや孫などを直系卑属・親や祖父母などを直系尊属・兄弟を傍系血族と呼びます。
本人が生前に遺言書を作成していればその指示に従い遺産が相続されますが、遺言書がない場合は法定相続・分割協議で分配方法を決めます。
ドラマや映画などで見かける「遺産相続の骨肉の争い」は分割協議で起こり、不備のため法的効力がない遺言書はその後分割協議となるケースもあります。
生前贈与と相続を比較するとどうなる?
生前贈与と相続を比較すると一番特徴的な違いは、相続タイミングが本人の生前・逝去後で異なることです。
- 生前贈与と相続の違い
・相続タイミングが違う
・課税される税金が違う
本人存命中に相続する生前贈与は、相続経緯を法定相続人に説明しながら 相続税を回避し贈与税として納税額を抑えることができます。
対して相続では本人逝去後に遺言書・法定相続に則って進め、簡単な手続きで遺産相続を完了させることが可能です。
相続金額によっては控除の範囲内となり、そもそも節税対策が必要ない相続も多くあります。
本人の希望する遺産相続を実現するためには生前贈与・相続で起こるメリット・デメリットを熟考しなければいけません。
タイミング | 税金 | 登録免許税 | 例 | |
---|---|---|---|---|
生前贈与 | 贈与者の生前 | 贈与税 | 2.0% | 親が生きている時に子どもに実家の名義変更をしておく |
相続 | 贈与者の死後 | 相続税 | 0.40% | 夫が亡くなった時に妻が家を相続する |
土地の生前贈与のメリット
本人が存命中に土地・マンション・貯金などの資産を、家族・法定相続人・希望する第三者に贈与することを生前贈与と呼びます。
土地を生前贈与は大きく分けて4つのメリットがあり、生前贈与をうまく活用できれば遺言書・法定相続で土地を相続させる以上の効果が期待できます。
ひとつめは相続人同士のトラブルに対処しながら相続を進めることで、家族・親戚同士で遺恨が残らない土地の分配ができることです。
ふたつめは本来相続権利のない法定相続人以外の人でも、本人が希望すれば土地や資産を贈与することができる点です。
三つめは遺産を分配させたい贈与者・分配を受ける受贈者で相互の意思を反映させることで、計画的な遺産分配をおこないやすいというメリットがあります。
四つめは生前贈与を暦年贈与などで分割して相続させることで、相続税を回避する節税対策が実現できるのも大きなポイントになるでしょう。
相続人が多くもめることが予想される場合、避けることができる
遺産をどのように遺族に相続させるかは、生前に遺言書を作成し意向を伝えることがスタンダードな方法ですが、本人の意図通りの相続が確実におこなわれる保証はありません。
また法的効力を有する遺言書の作成には専門家へ依頼するケースもあり、相続には多くの時間と労力が必要になります。
- 土地などの所有財産の生前贈与は相続人同士のトラブルを回避できる
※生前に本人が遺産分配を管理することで逝去後の遺族の相続の揉め事を未然に防ぐ
家族や親戚の人数が多く、財産をどのように分配するか決めるのが難しいケースでは、遺言書で指示しても本人の意図が伝わらず、その後相続人同士で揉め事になります。
生前贈与のメリットは生前に土地・不動産などを分配してしまうことで、法定相続人が揉め事を起こす前に本人の意思で遺産相続を完了させることです。
配偶者、相続人以外に相続をしたい人がいる場合、生前に決めることができる
本人が逝去した場合の遺産の相続人は、配偶者や家族・親族が法定相続人となります。
しかし本人が希望すれば第三者を相続人として選ぶことができ、土地や不動産を優先的に贈与させることもできます。
- 土地の生前贈与は希望する第三者を相続人として遺産を贈与できる
※本人が存命中に分配させたい相手に確実に遺産を贈与できる
自分が生きている間に希望する贈与相手を選べることは、土地の生前贈与の大きなメリットのひとつです。
どれだけ遺言書で細かく指示を出していても細部まで反映されなかったり、本人が思う遺産分配と違った形で相続されてしまうリスクは拭いきれません。
特に持ち家やマンションなどの財産を家族以外に贈与するケースでは、不服を感じ家族・親族から話し合いを求められる機会もあるでしょう。
生前に本人の口から経緯を説明することで、法定相続人同士のトラブルを最小限に抑えることができます。
贈与者に意志がある場合、意思に従って計画的に進めることができる
遺産を贈る側を遺言者・受け取る側を受遺者と呼び、贈与者が遺産分配のプランを準備します。
相続プランは公的書類である遺言書として作成され、受遺者が逝去後に遺言書に従い遺産の名義変更をおこなう形式が一般的です。
しかし前述の通り遺言書での遺産相続は、本人の意思が確実に反映される保証はありません。
また遺産相続の結果を確認したくても本人が逝去しているため、遺産の行く末を常に案じながら余生を送る人もいます。
- 土地の生前贈与は贈与者の細かな相続プランを実現できる相続方法
※遺言書では不安な相続を生前に計画的し実行できる
土地の生前贈与は遺言書で希望する遺産相続を記述したけれど、本当にプラン通りに遺産相続が実行されるか不安をもつ人におすすめの贈与制度です。
希望プランを適時確認しながら手続きができるため、細かい計画でも100%本人の意思通りの土地の贈与が実現します。
生前贈与を選択するデメリット
お金の問題から土地の遺産相続を考えるとき、生前贈与を選択すると軽視できない金銭的なデメリットが発生します。
生前贈与で土地を贈与した場合、受贈者は登録免許税・不動産取得税の支払い義務を背負うことになります。
登録免許税・不動産取得税は贈与する土地の資産価値が高ければ金額が大きくなるため、良かれと思って実行した生前贈与が思わぬ金銭負担となって、受贈者を苦しめることになるかもしれません。
土地・持ち家・マンションなど継続して管理・維持費が必要な資産は、受贈者が有効活用できないケースでは負担としてのしかかることになるでしょう。
また生前贈与のメリットである相続税の控除も、贈与者が3年以内に逝去すれば相続税の計算上は相続財産に足し戻されるため、新たに相続税の支払い義務が生じる点も留意すべきデメリットです。
なお、現在は「3年以内」とされている相続財産への足し戻し期間は、今後の税制改正の成り行きによっては更に長期に改正される可能性がありますので、その動向に注意を払う必要があります。
登録免許税が高い
生前贈与として贈与者から受贈者に土地や不動産の贈与をしたとき、税金として高額なお金が徴収されることはご存知ですか?
- 生前贈与として土地を贈与すると高額な登録免許税が発生する
※贈与者から受贈者への名義変更にかかる税金
登録免許税は贈与で名義変更される土地の固定資産評価額に対し、2%を税金として支払うというルールがあります。
譲渡する土地に資産価値が高いと判断されれば、その分の固定資産評価額が高くなるため、多くの登録免許税を支払わなければいけません。
また固定資産税評価額の1/2の金額に3%の割合(すなわち1.5%の割合)で発生する不動産取得税も払うため、トータルで多くの支出が生じるというデメリットがあります。
贈与自体は歓迎でも高額な登録免許税・不動産取得税の課税対象となることで、土地の分配を受けたことを後悔する法定相続人も一定数いるようです。
贈与された土地や家の管理・維持費がかかる
遺産相続で度々問題となるのが相続後の土地・不動産の管理・維持費問題です。
- 生前贈与された土地の管理・維持費が高額で後悔する
※遺産を有効活用できない場合はデメリットの方が大きい
土地の遺産相続は相続して終わりではなく、受遺者の意思に関係なく税金問題や維持費用問題がスタートします。
日本では土地・不動産を所有すれば固定資産税・都市計画税の課税対象になるため、毎年課税されることでキャッシュ・フローがマイナスに作用することもあります。
また相続した不動産は相続時点から、定期的な管理費用が発生することも避けることはできません。
土地の遺産分配は必ずしも受贈者のメリットにはならず、土地を相続してから法定相続人が後悔するというパターンも珍しくありません。
贈与されて3年以内に相続となれば相続税として課税されるもある
贈与者が逝去するタイミングによっては生前贈与を実行しても、相続税の計算上は生前贈与ではなく相続税の課税財産として処理されるケースがあるので注意してください。
- 土地の生前贈与は贈与者が3年以内に逝去した場合は相続税の課税対象となる
※タイミングによっては相続税が発生する
土地の生前贈与は実施されてから3年以内に贈与者が逝去した場合、贈与された土地が相続税の課税対象になります。
相続税の課税対象として扱われると、苦労して手続きした生前贈与が経済的に無効化されてしまうため、実行するタイミングはくれぐれも気を付けなければいけません。
例えば相続税を回避する目的で毎年暦年贈与で贈与を進めていても、3年以内に逝去すれば相続税の課税対象となります。
土地の相続を選ぶメリット
遺産相続で土地を相続する場合、法定相続・遺言書・分割協議の3パターンから相続することになります。
テレビドラマなどでよく出てくる遺言書はあくまで遺産相続のひとつの手段に過ぎず、家族で遺産相続の認識が共有できているケースでは法定相続による分割で遺産相続の手続きを簡略化することも珍しくありません。
法定相続人が複数いてトラブルになれば遺産分割協議、さらには家庭裁判所による調停や審判といった手続が必要になり、金銭的・時間的にも大きなコストがかかることもあります。
またお金の観点からも土地の相続を選ぶメリットは大きく、生前贈与で課税される税率の高い登録免許税・不動産取得税が、相続では税率の低い登録免許税だけ納税すれば土地の遺産相続が完了します。
このように法定相続は、短期間で税金を抑えながら土地を相続できる制度です。
相続人が少なく、もめる要素が少ない場合、簡素な手続きでOK
遺産相続で土地を相続する場合、贈与者の意図を反映させる遺言書がない相続では、法定相続で法定相続人の遺産配分が決定します。
- 土地相続は相続人の間でトラブルがないケースでは法定相続でスムーズに遺産相続できる
※トラブルになれば遺産分割協議・遺産分割調停など煩雑な手続きが必要
家族や親族が少なくお互いに土地の相続について共通認識があるケースでは、わざわざ生前贈与で費用・時間を費やすメリットは限られます。
特に遺産相続のプランがない場合は遺言書を作成せず、逝去後は法定相続によって土地の相続を完了させる人も多くいます。
法定相続はもっともシンプルな遺産相続で、法定相続情報一覧図や必要書類を登記所へ提出し、土地の名義を変更することで相続が完了します。
同居している配偶者、子どもがそのまま住み続ける場合、手続きが簡単
土地の相続といっても故人と家族が同じ住居に住んでいるケースでは、本人が逝去後も継続して家族が土地や住宅に住むのが一般的です。
そのような遺産相続で他の法定相続人が法的な権利を主張し争う事態になることは稀であり、多くの場合相続登記など簡単な手続きだけで遺産相続が完了することが多いです。
- 土地の遺産相続は逝去後に同居する家族が住むケースでは相続登記など簡単に済む場合が多い
※逝去により家族のライフスタイルに変化がない場合
父親名義の不動産に家族が住んでいる家族を例にすると、父親が逝去後は配偶者である母親が3ヶ月以内に相続放棄か承認かを選び、相続する場合は土地の不動産名義を母親に変更することで土地を相続できます。
対して家族構成が複雑な遺産相続や家庭内に問題を抱える遺産相続では、遺産分割協議で遺産相続の決着をつけるため、手続きが煩雑になることもあります。
生前贈与によって受ける負担(固定資産税等)を減らすことができる
同じ資産価値のある土地でも相続の方法によって、その後負担する税金の金額が異なります。
例えば生前贈与で将来的に法定相続人となる者に土地を贈与した場合、税率の高い登録免許税・不動産取得税が課税されますが、相続の場合は税率の低い登録免許税だけで済みます。
- 法定相続・遺言書での土地の相続は不動産取得税が発生しない
※登録免許税0.4%のみ納税する
生前贈与の税金は登録免許税が固定資産評価額の2%、不動産取得税が固定資産評価額の1/2に3%(すなわち1.5%)で計算され、土地の資産価値が高いほど支払う税金も大きくなります。
法定相続人の為を思っておこなった土地の生前贈与が、逆に高額な登録免許税・不動産取得税となり大きなデメリットになることもあります。
対して土地の相続では支払う登録免許税が低く、法定相続人の相続後の負担を大幅に軽減できるメリットがあります。
また、贈与してもらった土地の固定資産税・都市計画税を毎年払っていかないといけなくなり、思いもよらぬ負担が増えることにもなりかねません。
相続を選択するデメリット
遺産相続を選択するとき高額な相続税が発生しますが、遺言書がなく遺産相続の分配が不明瞭な場合、遺産分割協議により公正な遺産分配を目指します。
しかし遺産相続の正当性や価値観が法定相続人によって異なるケースでは、遺産分割協議を重ねても相互の主張が食い違い遺産相続がスムーズに完了しないこともあります。
その場合は遺産分割調停を家庭裁判所に申し立て、場合によっては遺産分割審判に移行するなど、裁判によって強制的に遺産相続を決着させますが、その間は法定相続人同士が揉めたり、相続後も長く遺恨を残す原因になります。
また遺産相続によって承継されるのは資産だけでなく借金などの負債も含まれるため、相続後に相続税・借金返済の義務が法定相続人に課せられるデメリットもあります。
このように遺産相続は必ずしもメリットだけでなく、本来不要な争いや金銭問題のトリガーになることがあるので注意してください。
遺された人達がもめるかもしれない
故人の遺産を巡って家族・親族など法定相続人の間でトラブルが起こることは、残念ながら遺産相続では決して珍しい事象ではありません。
それぞれの立場・考え方が違う人間が遺産について議論すれば、当然ですが主張の違いが原因で相続争いに発展する可能性もあります。
- 遺族が満場一致で相続分配できないとトラブルに発展する
※遺産相続が原因で家族や親族同士に遺恨が残る
仲が良かった家族・親戚同士が各々の利益を優先させるために遺産で揉めることは、遺産相続の根本的な意義を考える時、遺族にとって本当にメリットになっているのか疑問が残るでしょう。
また遺産相続のトラブルが深刻化すると裁判で遺産分割を争うことになり、法の下で相続問題を決着させなければ収拾がつかないこともあります。
遺産相続を選択すると場合によっては家族・親族の間で、本来無用な金銭トラブルや遺恨を残すリスクがあることも知っておきましょう。
相続人が債務金を払えないという金銭的負担がある
遺産として相続されるのは故人の預貯金・土地・不動産、有価証券などの資産だけでなく、場合によっては借金や未納税金などの債務も含まれます。
- 遺産相続を選択すると相続人は借金など債務も背負うことになる
※場合によっては相続する資産より借金の方が大きいこともある
例えば遺産相続をおこない法定相続人が貴金属・預貯金などの純資産を相続しても、故人が生前抱えていた借金や未納税金などの金額の方が高額であれば、遺産相続はプラスにはならず寧ろ大きなマイナスになるでしょう。
また相続財産が借金よりも多く相続財産で相殺できたとしても、純額の相続財産が基礎控除額を上回る遺産相続には相続税が発生するため、相続税がきっかけで金銭トラブルになるというデメリットも留意しなければいけません。
相続税対策が本当に必要か改めて検討してみる
近いうちに遺産を相続することになる人には、相続によって発生する相続税などの金銭問題が待っています。
遺産相続後10ヶ月までに相続税を申告しない場合、無申告加算税というペナルティが課せられるため、多くの法定相続人はできる限り相続税を抑えながら申告したいと考えます。
相続税を節税する小規模宅地等の特例制度の適用を受けたり、養子縁組で法定相続人を意図的に増やすなど多岐に渡る節税対策がありますが、基礎控除額のである「3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )」以下の場合は節税対策はほとんど意味をなしません。
基礎控除額を超える遺産相続が見込まれる場合は、生前に暦年贈与・相続時精算課税制度などの贈与制度を利用し、毎年少額ずつ遺産を分配する・2,500万円までの特別控除対象枠を意識して遺産を贈与する方法を検討してください。
本人逝去後は遺産分割協議により遺産相続が開始されますが、法定相続人同士のトラブルのリスクが高いため、生前に遺言書として本人が遺産相続を取り仕切ることも有効なリスクマネジメントのひとつです。
基礎控除があるため相続税の申告は必要ないことが多い
相続があれば必ず相続税を納めなければいけない訳ではなく、被相続人から相続財産を取得した全員の遺産総額の合計額が基礎控除額を下回っている場合、相続税を申告し納税する義務はありません。
- 基礎控除額「3,000万円 +( 600万円 × 法定相続人の数 )」以下の場合は相続税の申告不要
※相続した総額が不明瞭なときは専門家に相談する方が良い
基礎控除額 の計算式は「1人につき600万円」となっていますが、財産を取得した各人ごとに600万円ずつの枠があるのではありません。
例えば、法定相続人の数が3人(A・B・C)の場合には基礎控除額が4,800万円になりますが、その3人の取得した相続財産が「A:4,500万円・B:100万円・C:100万円」であっても、合計(4,700万円)が4,800万円に満たないため、A・B・Cの全員について相続税の申告・納付義務がないことになります。
遺産相続のタイミングで相続税の節税を考える人の中には、節税目的で小規模宅地等の特例制度の適用・養子縁組・贈与信託などの行動を取る法定相続人がいます。
しかし実際に弁護士・税理士に遺産相続内容を確認してもらうと、そもそも基礎控除額以下で相続税対策が不必要な事例だったというパターンも少なくありません。
暦年贈与や相続時精算課税制度等で節税できる
相続税を少しでも減らしたいと思うのなら、暦年贈与・相続時精算課税制度などを適用して相続税の節税を実現してください。
- 相続税は暦年贈与・相続時精算課税制度が現実的な節税対策
※実現すれば遺族の税金負担を軽減できる
暦年贈与は1年に110万円までの上限金額内であれば、現金や資産を希望する受贈者に贈与しても課税されないという贈与制度です。
毎年110万円以下で暦年贈与として法定相続人などに分配すれば、贈与者が3年以内に逝去しない限り相続財産から切り離されることになり、結果として相続税の負担が減少する形で遺産相続できるのがメリットです。
相続時精算課税制度は60歳以上の贈与者が利用できる贈与制度で、18歳以上の子ども・孫を受贈者として2,500万円までの資産を贈与できます。
この2,500万円以下の贈与は贈与税の特別控除の対象となり、贈与税の課税なく贈与できるため遺産分配のひとつとして活用する人が少なくありません。
しかし、相続時精算課税制度は、相続財産から切り離せる暦年贈与とは異なり、贈与者が死亡すると、相続税の計算上は相続財産に足し戻しになることに留意する必要がありますが、生前に贈与で帰属を決められるという点で相続トラブルの防止につながることが期待されます。
暦年贈与・相続時精算課税制度は、うまく利用することができれば、利用せずに相続を迎えるケースに比べ、相続税・贈与税として納税する費用の最小化を志向することができます。
遺言書を作成しておくことでトラブルが避けられる場合もある
相続税の節税対策のひとつの有効なテクニックとして、遺産を相続する法定相続人が相続税の負担で困らないように、生前に遺言書を準備する方法があります。
- 遺言書を利用して遺産分割協議の費用削減・法定相続人同士のトラブルを防ぐ
※遺言書は節税対策や遺族の相続トラブルを回避できる有益なツールと考える
遺産相続で遺言書がない場合は遺産分割協議をおこない相続する遺産分配などを決めますが、法定相続人が弁護士・司法書士などによる必要書類作成を依頼する場合には費用が発生します。
遺言書を準備しておけば遺産分割協議なしで遺産相続が完結するため、無駄な労力と費用を削減できるメリットがあります。
また遺言書で遺産を細かく分け遺族に分配することで偏りをなくすことで、特定の受贈者に相続税負担が集中することを回避できるケースもあります。
もし法定相続人が遺産分割に不服を申し立てても、適切な形式で作成された遺言書は法的効力を有するため、原則として遺留分を除く遺産財産は遺言書通りに実行されトラブルになりません。
遺産分配の手順を明確にし本人の意思を残された遺族に伝達できる遺言書は、本人の逝去後に起こる未知数のリスクを未然に防ぎ、家族・親族の絆を守る重要な役割を担っています。
この記事の監修公認会計士・税理士 |
大橋 誠一 |
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事務所 | 公認会計士・税理士 大橋 誠一 事務所 |
資格 | 公認会計士(登録番号:22220)、税理士(登録番号:86392) |
備考 | 記事監修 |
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